2016.05.17更新

生前贈与があった場合は,どのように相続分を算定するのでしょうか。

共同相続人の中に被相続人から生計の資本として生前贈与を受けるなどの特別の受益を受けた者がいる場合には,相続に際して,この贈与を相続分の前渡しとみて,相続分の計算上,贈与を相続財産に持ち戻して相続分を算定します。
この「生計の資本としての生前贈与」とは,居住用不動産の購入資金に関する贈与が典型例であり,本件の3000万円が次男のマンションの購入資金である場合は,特別受益に該当することが考えられるケースでした。

本件事例で,3000万円全額が特別受益であるとした場合,次男は,以下の計算より結局,父の財産を相続しないこととなり,自宅と預貯金を母と長男が相続することが考えられます。

相続財産:自宅不動産3000万円+預貯金1000万円+生前贈与3000万円=7000万円  

次男の相続分:7000万円×1/4(法定相続分)-生前贈与3000万円=-200万円<0円

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.05.12更新

前回ご紹介したのは,価値3000万円の自宅の土地建物と1000万円の預貯金が相続財産である場合,配偶者に全てを相続させたいが,他の相続人である子供にも法定相続分を渡さなければいけないのか,という事例でした。
事例のとおり,相続人が配偶者と子供2人の場合は,法定相続分は,配偶者1/2,子供がそれぞれ1/4となりますので,子供に対して1000万円の相続分を渡さなければいけなくなります。この点,遺産分割で,すべての財産を配偶者に,という合意をすれば問題ありませんが,合意がなければ相続分を渡す必要があります。

しかし,本件では,母は,父の通帳等を確認していたところ,実は次男がマンションを購入するにあたって,長年持っていた株を売却して換金した3000万円ほどの現金を贈与していました。

このような生前贈与があった場合,相続分の算定はどのようになるのでしょうか。

 

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.05.10更新

父の所有する自宅で長男夫婦が父母と同居しており,次男は,結婚してマンションを購入し,そこで妻子と住んでいました。この度,父が亡くなり,父の相続財産は,自宅である3000万円ほどの価値のある戸建住宅と総額1000万円ほどの預貯金であり,遺言は残していませんでした。

長男としては,母には父との思い出の自宅で,ある程度ゆとりのある生活をしてほしいと思い,父の遺産を全て母に相続させたいと考えていました。しかし,次男にも法定相続分として,父の相続財産の4分の1を相続する権利があります。

この場合,次男との遺産分割の話し合いをするにあたって,次男との合意がない限り,次男も父の相続財産の4分の1を相続することになるのでしょうか。

次回は,上記事例がどのような解決となったのか,解決方法をお伝えします。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.04.28更新

平成27年1月1日の相続税法改正以後,相続税の課税対象となる方々の範囲が拡大されたことに伴い,直系尊属(実の親や祖父母など)からの住宅取得資金援助の非課税特例や相続時精算課税制度などの非課税特例を用いて,生前贈与等の方法によって,相続税対策を採られる方も増えてきました。このような生前贈与は,確かに,相続税対策の面では有効であるのですが,反面,他に兄弟姉妹が存在する場合には,相続争いのきっかけとなってしまうこともあるのです。

次回からは,生前贈与によって兄弟間に相続争いが生じてしまった事案を紹介します。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.04.26更新

前回お伝えしたとおり,たとえ認知症であったとしても,遺言を遺す者の意思を尊重する観点から,当該遺言が無効となるのはそのうち問題が非常に重要と考えられる一部に限られるため,遺言無効を争うハードルは非常に高いです。

しかし,ご紹介した今回のケースのように,遺言者の意思とは無関係に,特定の相続人が遺言を悪用するケースは存在します。

遺言無効の主張をするにあたっては,遺言時やその前後の遺言者の診断書や看護記録,認知症の検査結果,担当医師の供述、遺言者の日記や、生前の遺言者の生活状況・人間関係に関する関係者の供述が必要となりますが,特に重要なのは,医療記録です。医療記録の入手は,医療機関に頼めば入手できますが,内容が専門的なこともあり,どのような内容が記載されているのかを確認するだけでも非常に時間がかかります。また,医療記録の内容が,遺言無効の主張に直結していることから,医療記録の内容を法的主張に組み立てる必要もあります。

相続問題が起きてしまった場合,上記事案とは異なり,親族内の話し合いで解決できる場合もありますが,他方で上記事案のように解決のために裁判等の手続を踏まなければならない場合もあります。特に,上記事案のように家族間で争いが生じないために作成した遺言が新たな争いが勃発してしまうケースはより親族内での話し合いでの解決相続問題が起きた場合,親族内での話し合いによる解決は相当に困難であるため,争うことが可能なのかどうか等の点については,第三者の意見を聞きながら慎重に決めていく必要があります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.04.21更新

相続解決事案の紹介として,認知症の母による一人の相続人に全財産を相続させる旨の遺言が発見されたケースを紹介してきました。

今回の事案の解決においては,医療記録等の各種証拠があったため,遺言が無効であることをBさん側も認め,裁判外で遺言が無効であることを前提とした解決ができました。しかし,実際の相続トラブルにおいては,遺言を無効とするのは非常にハードルが高いのです。

日本では,遺言を遺すことがまだ一般的ではなく,若くて元気なうちに遺言を遺すことはそれほど多くはありません。ご高齢で遺言を遺す場合,その時点で,判断力,理解力等の点で何らかの問題を抱えていることが相当程度見受けられるところ,少しでも問題があればその遺言が無効になるというのであれば,自筆の遺言のうち,かなりの割合の遺言が無効となってしまいます。そのような結論は遺言を遺す者の意思を軽視するものですので,無効となるのはそのうち問題が非常に重要と考えられる一部に限られます。そう考えると,実際の裁判において,遺言が無効と判断されるのは,かなりハードルが高いといえます。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.04.18更新

前回ご紹介した,認知症の母が妹に全財産を相続させる旨の遺言書を作成していたケースですが,どのような解決となったのでしょうか。

まず,依頼を受けて,母が入居していた老人ホームや通院していた病院等の医療記録,介護記録等を確認しました。すると,母が遺言を作成したとされる時期においては,母の認知症はかなり進んでおり,判断力,理解力,記憶力共に低下しており,医師やヘルパーに対して,意思の伝達が全くできない状況であることが判明しました。また,母の主治医からも,母の認知の程度は進んでおり,認知症のテストでも全ての項目に最も重度の認知の程度を示しており,遺言を書くことは到底できないとの意見も出されました。他方,遺言にある筆跡も,Bさんの筆跡とよく似ていることが分かりました。

そのような医療記録,介護記録,担当医の意見,筆跡の異同もあり,結局Bさん側は,遺言が無効であることを認め,母の財産を半分ずつ取得する内容の遺産分割協議書を作成することとなりました。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.04.14更新

【遺言の悪用が問題となったケース】

相談者であるAさんの父はすでに10年前に他界し,母は父が残した自宅で一人暮らしをしていました。Aさんには妹であるBさんがいます。Aさんは結婚して,母の自宅から遠く離れたところで生活していたため,母の自宅の近くに住む未婚のBさんが,認知症の出ていた母の身の回りの世話をすることになりました。しかし,3年ほど前,Aさんが母を訪ねたところ,母の認知症がかなり進んでいたにもかかわらず,Bさんが全く母の世話をしていないことが判明しました。Aさんは遠方に住んでいて,母を引き取ることができなかったため,母は老人ホームへ入居することになりました。その後,母は亡くなり,遺産分割をすることになったところ,Bさんは,母の遺言を持っていると言ってきました。その遺言の内容は,母の遺産の全てをBさんに相続させるという内容でした。

老人ホームに入居する前の段階で,すでに母の認知症の症状は相当程度進行していたため,母が亡くなる直前にそのような内容の遺言を書くことができたのか疑問でした。Bさんが母名義の遺言を書いた可能性が高いと思われたため,Aさんは,Bさんに対して母の遺言は無効だと主張しました。すると,Bさんは弁護士を立てて遺言は有効であると主張してきたため,Aさんも弁護士に依頼しました。

どのような解決となったか,次回は解決方法についてご紹介します。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.04.12更新

相続によって,兄弟姉妹間で裁判や調停等に移行するようないわば骨肉の争いを避けるためには,遺言を作成しておくことが有効な手段です。実際,遺言があることで,故人の家族への思いと共に,故人の財産が相続され,その結果,家族間での無用な相続争いが回避されるケースは多々あります。

しかし,他方で相続争いを回避するための有効な手段である遺言を悪用することによって,かえって相続争いが勃発してしまうケースもあります。

次回より,遺言が悪用された結果,相続問題が生じてしまったケースをご紹介いたします。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.03.31更新

前回まで,自宅不動産が唯一の相続財産である場合の解決方法をご紹介してきました。
上記の解決においては,寄与分,自宅評価に関する長男の主張が認められていますが,実際の相続トラブルにおいては,これらの主張が認められるのは容易ではありません。
例えば,上記の主張をするにあたっては,最低限,介護状況に関する資料の収集,父の預貯金口座,支払先等に関する全ての金銭出納状況の精査等が必要となります。また,不動産の評価に関しては,そもそも相手が提示してきた査定額が高額なのかどうかを判断しなければならず,仮に高額だと考えたとしても,誰に不動産評価をお願いすればよいか,評価を依頼したとしてもその評価額が自分にとって有利な評価額となるのか等の問題もあります。

相続問題が起きてしまった場合,上記事案とは異なり,親族内の話し合いで解決できる場合もありますが,他方で上記事案のように解決のために複雑な手続を踏まなければならない場合もあります。最近では一次相続未解決の二次相続(上記事案では,母の相続が解決していない中で,父がお亡くなりになる場合)のご相談を多くいただきますが,そのような場合には親族内での解決が非常に困難です。

相続問題が起きた場合,親族内での話し合いによる解決が妥当かどうか等の点については,第三者の意見を聞きながら慎重に決めていく必要があります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

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