前回お伝えしたとおり,たとえ認知症であったとしても,遺言を遺す者の意思を尊重する観点から,当該遺言が無効となるのはそのうち問題が非常に重要と考えられる一部に限られるため,遺言無効を争うハードルは非常に高いです。
しかし,ご紹介した今回のケースのように,遺言者の意思とは無関係に,特定の相続人が遺言を悪用するケースは存在します。
遺言無効の主張をするにあたっては,遺言時やその前後の遺言者の診断書や看護記録,認知症の検査結果,担当医師の供述、遺言者の日記や、生前の遺言者の生活状況・人間関係に関する関係者の供述が必要となりますが,特に重要なのは,医療記録です。医療記録の入手は,医療機関に頼めば入手できますが,内容が専門的なこともあり,どのような内容が記載されているのかを確認するだけでも非常に時間がかかります。また,医療記録の内容が,遺言無効の主張に直結していることから,医療記録の内容を法的主張に組み立てる必要もあります。
相続問題が起きてしまった場合,上記事案とは異なり,親族内の話し合いで解決できる場合もありますが,他方で上記事案のように解決のために裁判等の手続を踏まなければならない場合もあります。特に,上記事案のように家族間で争いが生じないために作成した遺言が新たな争いが勃発してしまうケースはより親族内での話し合いでの解決相続問題が起きた場合,親族内での話し合いによる解決は相当に困難であるため,争うことが可能なのかどうか等の点については,第三者の意見を聞きながら慎重に決めていく必要があります。