2016.08.30更新

現在議論されている相続法改正の中で,配偶者の居住権保護とは別に,配偶者保護の観点から改正しようとしている点が配偶者の法定相続分です。通常,婚姻期間が長ければ,夫の財産は夫婦で協力して作り上げた夫婦共同財産であり,妻の法定相続分が1/2では夫婦共同財産の自分の分を取り戻したに過ぎず,配偶者の貢献が考慮されてないという問題点から,改正が議論されています。

改正案では,配偶者の貢献度合いを計算して法定相続分を決定する等の改正案が出ていますが,「貢献度」というあいまいなものを計算することから,遺産分割が複雑化してしまい,相続人間でトラブルが生じるリスクが高まる可能性もあります。

相続法改正の議論は,現在進行形で議論されているものであり,今後改正案が変更することも大いに考えられますので,今後の議論には注目していく必要があります。

しかし,問題点となっている残された配偶者の生活の保護という観点は,現在でも問題となり得るものです。相続法改正前の現段階においても,残された配偶者の生活が相続によって大きく変わらないために,生前に遺言を作成しておくことがより必要となっていくものと考えられます。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.25更新

現在議論されている相続法改正の主な項目として,配偶者の居住権の保護があります。

配偶者の一方が死亡した場合,他方の配偶者はそれまで居住してきた住居に引き続き居住することを希望する場合が多いと思います。しかし,相続財産が自宅不動産のみである場合,配偶者以外の相続人が自宅不動産を売却して売却代金を相続分とおりに分配しようと主張してしまった場合,残された配偶者が一定の金銭を支払って代償分割することができれば問題ありませんが,支払う金銭がない場合は,今後自宅に住み続けることができなくなってしまいます。また,遺産分割で配偶者が自宅不動産の所有権を取得する場合,自宅不動産の評価額が高額となるため,今後の生活費となる預金等の相続財産を取得できなくなり,その後の生活に支障が生じる可能性もあります。

上記のように,高齢の配偶者が自宅に住めなくなってしまう可能性に備え,配偶者の短期的な居住権と長期的な居住権を保護しようという改正案が出ています。

短期居住権とは,被相続人が亡くなってから遺産分割が終了するまでの短期間居住する権利のことであり,改正法では,配偶者に無条件に認めることとされています。

もう一つの長期居住権とは,遺産分割終了後も長期にわたって住み続ける権利のことであり,遺言若しくは遺産分割協議で合意があった場合は,遺産分割によって自宅不動産が他の相続人の所有になったとしても,配偶者に長期居住権を認め,この長期居住権を金銭的価値に換算して,配偶者の相続分から控除する等の取扱いを行うこととなっています。

配偶者と子供とが相続人であって,自宅不動産と預金のみが相続財産の場合,今後も自宅に住み続けたいと考える配偶者に全ての財産をのこすための遺産分割を行う場合が多いと思いますが,後妻と前妻の子供等の関係の場合は上記の問題が生じる可能性がないとはいえないかも知れません。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.23更新

昭和55年に配偶者の法定相続分が3分の1から2分の1に変更される改正の後,民法の相続法に関しては改正がないまま現在に至りました。

しかし,平成25年9月4日,非嫡出子の相続分を2分の1とする民法900条4項但書が憲法違反との最高裁大法廷違憲決定が下され,これを受けて平成25年12月5日に民法900条4項但書を削除する内容の民法改正が行われたことを契機にして,平成26年から現在まで相続法改正が議論されています。

現在議論されている相続法改正の主な項目としては,①配偶者の居住権の保護,②配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現,③寄与分の見直し,④遺留分の見直し,⑤遺言の見直し等多岐にわたります。

特に,医療の発達により平均寿命が延びていく中,被相続人もその配偶者も高齢化が進んでいることから,被相続人の配偶者の生活を保護しようという議論が進められています。

上記に紹介した相続法改正の議論は,現在進行形で議論されているものであり,今後改正案が変更することも大いに考えられますので,今後の議論には注目していく必要があります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.11更新

賃貸不動産の購入は,上記のとおり,相続財産の評価額を下げることができるので,納めなくてはならない相続税を低く抑えるという意味では,遺された家族が相続税の支払いに困らなくても済む,というメリットがあります。

しかし,節税対策として,1棟の賃貸不動産を購入した場合や,所有している不動産にアパートを建築した場合などでは,相続財産の中で当該賃貸不動産が大きな割合を占めることになります。このように他に分けられる財産がない場合は問題となります。

相続手続では,被相続人が亡くなった後に,複数の相続人間で遺産分割協議を経て,遺産分割協議書を作成し,それぞれの相続人に帰属した財産の評価額に応じた相続税を納めることになりますが,相続財産のうち,大きな割合を占めるものが賃貸不動産だったとすれば,相続人間で分けることができず,遺産分割協議において相続人間の共有として協議書を作成せざるを得ません。

複数の相続人の共有となった場合,一人の相続人が売却を希望したとしても,共有不動産の売却には共有者全員の同意が必要となりますので,他の相続人の同意が必要となり,相続人全員の足並みがそろわない場合は売却できません。各相続人それぞれの持分の範囲であれば,他の共有者や第三者に売却はできます。しかし,不動産の持分のみを購入する第三者は通常いませんし,いたとしても売却等が出来ない共有不動産であることを分かったうえで購入するため,高値で売却することは困難です。

また,相続人間で売却せずに共有していくことで合意が得られたとしても,賃貸不動産の大規模な改修や建替えが必要となった場合も共有者全員の同意が必要となりますので,共有者全員の同意を得られずに改修ができない可能性もあります。この場合,賃貸不動産の価値が下がってしまうリスクも存在します。

そして,共有者の一人が亡くなった場合は,亡くなった共有者の持分は,その相続人である配偶者・子供に相続されます。このような次の世代への相続が発生した場合,共有者が増えてしまって,権利関係が複雑化してしまうリスクも生じます。

このように,相続は,相続税の対策を行うことだけでは足りず,遺産分割協議を想定しておかなければ,相続が「争族」になってしまうリスクが発生してしまいます。

しかし,実際,預貯金等と比べ,賃貸不動産を所有することは,大きな節税効果があることは確かです。そのためには,遺された家族の間で無用な「争族」が生じないために,相続税対策のみを目的とした賃貸不動産購入だけでなく,遺産分割協議を見据えて,資産を分散させるために複数の賃貸不動産を購入しておく等,遺された家族に争いが生じないための対策も必要となります。こうした対策をもって初めて賃貸不動産購入という節税効果が最大限に発揮されるのです。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.08.09更新

平成27年1月1日に相続税法の改正が行われ,相続税の基礎控除が減少したことに伴い,相続税を納税する必要性が拡大しました。そのため,生前贈与や相続税に関する対策を考えられている方が増えています。そこで,賃貸不動産を購入すると相続税が安くなるので相続税対策に効果的だという話を聞いたことがある方も増えていると思います。

これは,相続税の算定方法が預貯金や株式等と不動産とでは異なるためです。

預貯金や株式等を相続する場合は,その時価を基準に相続税を算定することになりますが,不動産を相続する場合は,その不動産の時価を基準として相続税を算定するのではなく,土地であれば路線価といわれる,路線(道路)に面する標準的な土地1平方メートル当たりの価格をもとに評価し(一部では,固定資産評価額の倍率方式で評価する地域もあります。),建物であれば固定資産評価額をもとに評価して,相続税が算定されます。しかも,その土地・建物を第三者に貸して,賃貸不動産として保有している場合は,さらに評価額が下がることになりますので,相続税対策としては有効です。

投稿者: 吉川綜合法律事務所