2016.02.25更新

 先日より,不動産購入が相続税対策として有効ではあるが,相続税の節約だけでは予期せぬ紛争を残してしまう危険性があることについてご説明しました。

 そのため,相続対策は,賃貸不動産を購入して将来納めるべき相続税を節約すればよいというわけではなく,遺産分割協議後の相続人の状況をしっかりと認識した上で,具体的な対策を行う必要があります。

 例えば,資産を分散させるために複数の賃貸不動産を購入しておき,どの不動産を誰に対して相続するのかを遺言でしっかりと遺しておくというのはひとつの解決方法でしょう。
この遺言には,自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言の3つの方法がありますが,将来の紛争を防止するためには,公正証書遺言が最も適切です。また,遺言を遺す際には,誰に,何を相続させるという,単純な相続財産の分け方のみを遺すのでは足りません。どうしてそのような遺言を遺したのかを付言しておいた方がよいケースもあります。
例えば,生前からずっと自身の介護をしてくれた長男に対して比較的価値のある不動産を遺す場合には,その趣旨を遺言において他の相続人に説明しておくことによって紛争を抑止することができる場合があります。

 さらに,相続財産が不動産のみである場合,相続税の納税資金が不足してしまうため,一部現預金や保険の形で相続財産を遺す必要もあるでしょう。

 以上のとおり,相続人を想って節税のみを目指し,ただ単に収益力のある不動産を購入するような相続対策をしたのでは,かえって「争族」が生じ,問題を残しかねません。様々な視点から相続の問題をしっかりと考え,万全の対策を講じて初めて相続対策をしたといえるでしょう。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.02.23更新

 先日は,賃貸不動産の購入は,相続対策に有効であるという点をお伝えしましたが,では,賃貸不動産を購入して,相続税対策を行うだけで相続対策としては十分でしょうか。

 賃貸不動産の購入は,上記のとおり,相続財産の評価額を下げることができますので,納めなくてはならない相続税を低く抑えるという意味では,遺された家族の相続税支払額を低く抑える効果があります。しかし,例えば,節税対策として購入した不動産が,相続人間で分割することが困難な賃貸不動産である場合は,遺産分割時において問題が発生します。

 遺言書がない相続手続では,被相続人が亡くなった後,全ての相続人間で遺産分割協議を行います。この遺産分割協議において,相続財産が1棟の分割困難な賃貸不動産である場合,遺産分割協議において相続人間の共有として遺産分割をせざるを得ないと思われます。

 複数の相続人の共有となった場合,相続人が売却を希望したとしても,共有不動産の売却には,事実上,共有者全員の同意が必要となります。相続人全員の同意が得られないと,不動産を売却することはできません。

 また,相続人間で共有していく場合,賃貸不動産の大規模な改修や建替えも容易ではありません。大規模な改修や建替えにあたっては,相応の費用が発生しますので,相続人間で改修や建替えの必要性について意見が対立してしまうことがあります。この場合,本来すべき改修や建替えをすることができず,結果として不動産の価値を大きく低下させてしまう危険もあります。

 さらに,共有者の一人が亡くなった場合は,亡くなった共有者の持分は,その相続人に相続されます。このような次の世代への相続が発生した場合,共有者が増え,権利関係がさらに複雑化してしまう危険もあります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所

2016.02.19更新

 平成27年1月1日に改正相続税法が施行され,相続税の基礎控除が減少したことに伴い,従来よりも相続税対策の必要性が出てきました。そのため,賃貸マンションや賃貸アパート等の賃貸不動産を購入して将来の相続税を減らそうと考えている方も増えてきています。

 なぜ,賃貸不動産を購入すると将来の相続税が減ると考えられているのでしょうか。

 賃貸不動産を購入することによって将来の相続税が減少する理由は,不動産を相続する場合,相続税の基準額を大幅に下げることにあります。
 預貯金や株式等を相続する場合の評価額は,原則として預貯金額や株式の時価によることになりますが,他方,不動産を相続する場合,その不動産の時価を基準として相続税を算定するのではなく,土地であれば路線価,建物であれば固定資産税評価額をもとに,資産の評価がされ,相続税が算定されます。路線価や固定資産税評価額は,一般に,市場で取引されている価格(時価)よりも低額であり,しかも,その土地・建物が賃貸されていることによって,納税額が大幅に低くなります。

 したがって,資産を,賃貸不動産として保有することは,一般に相続税対策として有効と言われています。

投稿者: 吉川綜合法律事務所