2016.08.11更新

賃貸不動産の購入は,上記のとおり,相続財産の評価額を下げることができるので,納めなくてはならない相続税を低く抑えるという意味では,遺された家族が相続税の支払いに困らなくても済む,というメリットがあります。

しかし,節税対策として,1棟の賃貸不動産を購入した場合や,所有している不動産にアパートを建築した場合などでは,相続財産の中で当該賃貸不動産が大きな割合を占めることになります。このように他に分けられる財産がない場合は問題となります。

相続手続では,被相続人が亡くなった後に,複数の相続人間で遺産分割協議を経て,遺産分割協議書を作成し,それぞれの相続人に帰属した財産の評価額に応じた相続税を納めることになりますが,相続財産のうち,大きな割合を占めるものが賃貸不動産だったとすれば,相続人間で分けることができず,遺産分割協議において相続人間の共有として協議書を作成せざるを得ません。

複数の相続人の共有となった場合,一人の相続人が売却を希望したとしても,共有不動産の売却には共有者全員の同意が必要となりますので,他の相続人の同意が必要となり,相続人全員の足並みがそろわない場合は売却できません。各相続人それぞれの持分の範囲であれば,他の共有者や第三者に売却はできます。しかし,不動産の持分のみを購入する第三者は通常いませんし,いたとしても売却等が出来ない共有不動産であることを分かったうえで購入するため,高値で売却することは困難です。

また,相続人間で売却せずに共有していくことで合意が得られたとしても,賃貸不動産の大規模な改修や建替えが必要となった場合も共有者全員の同意が必要となりますので,共有者全員の同意を得られずに改修ができない可能性もあります。この場合,賃貸不動産の価値が下がってしまうリスクも存在します。

そして,共有者の一人が亡くなった場合は,亡くなった共有者の持分は,その相続人である配偶者・子供に相続されます。このような次の世代への相続が発生した場合,共有者が増えてしまって,権利関係が複雑化してしまうリスクも生じます。

このように,相続は,相続税の対策を行うことだけでは足りず,遺産分割協議を想定しておかなければ,相続が「争族」になってしまうリスクが発生してしまいます。

しかし,実際,預貯金等と比べ,賃貸不動産を所有することは,大きな節税効果があることは確かです。そのためには,遺された家族の間で無用な「争族」が生じないために,相続税対策のみを目的とした賃貸不動産購入だけでなく,遺産分割協議を見据えて,資産を分散させるために複数の賃貸不動産を購入しておく等,遺された家族に争いが生じないための対策も必要となります。こうした対策をもって初めて賃貸不動産購入という節税効果が最大限に発揮されるのです。

投稿者: 吉川綜合法律事務所