2016.07.21更新

預貯金を他の財産と合せて遺産分割の対象とできるかどうかが争われた審判の許可抗告審において、最高裁第1小法廷は平成28年3月23日に審理を大法廷に回付しました。最高裁判所の大法廷は,小法廷で審理した事件の中で,法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するか否かという憲法判断や判例が変更される場合にのみ開かれる法廷ですので,大法廷に回付された以上,預金債権は相続開始と共に当然に可分され,各相続人が相続分に応じて預金債権を承継するという判例が変更されると考えられます。

この判例変更がなされると,今後大きく変わるのが金融機関の対応です。

現在,相続人が亡くなって相続が開始されると,金融機関の口座は凍結されてしまい,各相続人が相続分の払戻し請求を行っても,金融機関は払戻しには応じません。しかし,上記のとおり,預金債権は相続開始と共に当然に可分されるのですから,判例と金融機関との運用が異なります。

例えば,夫が亡くなり,妻と子供2人の相続人が遺され,相続財産として1000万円の預金があったとします。この場合,現在の判例によれば,遺産分割を行わなかったとしても,妻には法定相続分1/2の500万円,子供たちにはそれぞれ法定相続分の1/4の250万円の預金の払戻し請求権が認められ,金融機関に払い戻ししてもらうことができるようになります。しかし,金融機関としては,一人の子供の請求に応じて相続分である250万円の支払を行った後,別の相続人である妻から,遺産分割協議の結果,預貯金は全て妻が相続することになったので,1000万円の払戻しをしてほしい,と請求してくる可能性も否定できません。すでに一人の子供に250万円支払ってしまっていた場合は,準占有者弁済として金融機関が免責されるケースは多いと思われますが,金融機関に免責が認められるためには、法律上、金融機関が善意無過失であることが要件となっているため、金融機関が善意無過失であると認められない場合には,すでに250万円の支払いを行ったとしても,妻に対して1000万円支払わなければならず,二重払いとなるリスクが生じてきます。

このようなリスクを回避するために,金融機関としては,相続財産である預貯金の払戻しをする際には,原則として相続人全員の同意を得たうえで預金の払戻しに応じるという運用がなされているのです。

今後,判例が変更された場合,遺産分割が終了するまで預金の払い戻しができないとするかどうかについては,現在見解が分かれています。預金の払い戻しが一切できない場合は,総日費用の支出などで相続人の便宜に沿わない可能性がが生じてしまいますので,判例変更後の金融機関の運用には注意が必要となります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所