2016.02.23更新

 先日は,賃貸不動産の購入は,相続対策に有効であるという点をお伝えしましたが,では,賃貸不動産を購入して,相続税対策を行うだけで相続対策としては十分でしょうか。

 賃貸不動産の購入は,上記のとおり,相続財産の評価額を下げることができますので,納めなくてはならない相続税を低く抑えるという意味では,遺された家族の相続税支払額を低く抑える効果があります。しかし,例えば,節税対策として購入した不動産が,相続人間で分割することが困難な賃貸不動産である場合は,遺産分割時において問題が発生します。

 遺言書がない相続手続では,被相続人が亡くなった後,全ての相続人間で遺産分割協議を行います。この遺産分割協議において,相続財産が1棟の分割困難な賃貸不動産である場合,遺産分割協議において相続人間の共有として遺産分割をせざるを得ないと思われます。

 複数の相続人の共有となった場合,相続人が売却を希望したとしても,共有不動産の売却には,事実上,共有者全員の同意が必要となります。相続人全員の同意が得られないと,不動産を売却することはできません。

 また,相続人間で共有していく場合,賃貸不動産の大規模な改修や建替えも容易ではありません。大規模な改修や建替えにあたっては,相応の費用が発生しますので,相続人間で改修や建替えの必要性について意見が対立してしまうことがあります。この場合,本来すべき改修や建替えをすることができず,結果として不動産の価値を大きく低下させてしまう危険もあります。

 さらに,共有者の一人が亡くなった場合は,亡くなった共有者の持分は,その相続人に相続されます。このような次の世代への相続が発生した場合,共有者が増え,権利関係がさらに複雑化してしまう危険もあります。

投稿者: 吉川綜合法律事務所