単純承認は,被相続人の一切の権利義務を包括的に承継する制度ですが,①相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき,②熟慮期間中に限定承認や相続放棄の手続きをしなかったとき,③相続財産を隠匿,消費したときは,相続を単純承認したものとみなされ,相続放棄・限定承認の手続きをすることができなくなってしまいます。
①相続人が相続財産の全部または一部を処分したときの「処分」とは,財産の変動を生む法律行為だけでなく,財産の現状やその性質を変える事実上の行為も含まれると考えられています。例えば,相続財産である不動産を売却した場合は所有権の変動が生じる法律行為ですので「処分」にあたりますが,相続財産である不動産を取り壊す場合も財産の現状を変える行為ですので「処分」にあたります。一方で,相続財産から葬儀費用を支出する行為などについては,相続財産の処分にはあたらないと考えられていますが,その金額が社会的にみて不相当に高額のものであれば,処分にあたり,単純承認したとみなされます。
相続人に単純承認する意思がなく自己の利益を図るためではなくとも、相続財産の処分に該当するとされているため,注意が必要です。
②については,熟慮期間を過ぎてしまうと相続放棄・限定承認が出来なくなってしまうので,単純承認したものとみなされます。
③は,相続債権者にとって不利益となる,またはそのおそれがある相続人の背信的行為があった場合には,単純承認とみなされるというものであり,これに該当すると,限定承認・相続放棄した後でも単純承認とみなされますので,注意が必要です。